ドモヴォーイは、ロシアの家々に住み、家族と家を守る精霊です。 ウクライナではドモヴィクとも呼ばれます。 ロシア語で「家」という意味の「ドム」とか「ドーム」に由来する名前ですが、 正式の名前で呼ぶことを避けて、「チェロヴィク」(あの人)、「デドゥシュカデドゥコ」(おじいさん) などと遠まわしな呼び方をします。

ドモヴォーイの姿ははっきりしませんが、毛深いのが特徴のようで、 掌にまで絹のような柔らかい毛が生えているようです。 灰色の髭を生やしたおじいさんの姿だという話もありますし、 角が生えていたり、尻尾があったり、家畜や干草の束に化けていることもあるそうです。

ドモヴォーイは暖かいところが好きなようで、ストーブのそばに住んでいます。 ロシアの古い家には「ペチカ」という、かまども兼ねた大きなストーブがあります。 (参考:ロシアのペチカ「親子の住まい方教室」より)  このストーブが家の中心にあって、ドモヴォーイも家の中心にいる家の精霊なのですね。 入口の敷居の下に住んでいるドモヴォーイもいるようで、 こちらは家に悪い者が入るのを防いでいます。


ドミーカとか、ドマニャーとか、ドモヴィーハという名前の奥さんがいて、 奥さんの方は床下に住んで、糸紬をするのが仕事です。 ドモヴォーイも夜中に家の仕事をやってくれ、夜中に家がギシギシ音を立てるのは、 ドモヴォーイが働いているせいだと考えられました。 しかし、ドモヴォーイの一番重要な仕事は、家族に危険が迫っていることを警告したり、 悪い人間や悪い精霊が家の中に入ってくるのを防ぐことです。 家に入ってきた悪い人間や精霊を、窒息させたり、熱湯で茹でて殺してしまうこともあるほど、 凶暴な面も持っています。 ドモヴォーイを怒らせてしまうと、家が火事になると言われています。

ですから、ドモヴォーイのいる家族は、ドモヴォーイのご機嫌を取るために、 ドモヴォーイを夕食に招きます。 食卓にキレイな白いリネンの布を敷いて、ドモヴォーイのための席を用意し、 食事の一部を捧げるのです。


ドモヴォーイは、未来を予言したり、警告もしてくれます。 暗がりでドモヴォーイに触られることがあるそうで、 その時、暖かくて毛深い感触がすれば、幸運が訪れる印です。 湿っぽくて冷たい感じがするときは、何か悪いことが怒る前触れです。 また、女の人の髪の毛を引っ張って、家庭内暴力から助けてくれたり、 トラブルが起こる前には、うめき声で教えてくれます。 ドモヴォーイが姿を見せた時は、誰かが亡くなる前触れです。 ドモヴォーイが泣いていたら、その家の家族が亡くなるそうです。 その他にも、ドモヴォーイが笑っている声が聞こえたら、何か良いことが起こる前兆だとか、 クシを楽器のようにかき鳴らしている時は、誰かが結婚する前触れだとか、 いろいろな方法で家族に未来を伝えてくれます。


そんな家族を守るドモヴォーイは、住んでいる家に親しむと、 そこから離れたがらないそうです。 そのため、家族が引越しをするときは、 ドモヴォーイも一緒に引っ越してもらうために、ちょっとした儀式をします。 ポーランドでは、ストーブを置く予定の場所や、ストーブの下に パンを置いて、ドモヴォーイをおびき寄せます。 ロシアでは、古いブーツをドモヴォーイの引越し用の乗り物にして、 一緒に来てもらうんだそうです。

また、白い布で塩味のパンを包んでおくと、 ドモヴォーイは安心してその家についてくれるようです。 庭に古い靴を引っ掛けておくと、ドモヴォーイが喜ぶそうです。

ドモヴォーイも家族の中にお気に入りがいて、その人には幸運がついて回りますが、 あまりお気に召さない人間には、いろんなイタズラを仕掛けます。 金縛りもドモヴォーイのイタズラだという話もありますが、 ひどい時には、窒息させられてしまうそうなので、ドモヴォーイとは仲良くしたいものですね。


ロシアを含むスラブ地方には、キリスト教が入ってくる以前のスラブ神話の断片が伝わっています。 ドモヴォーイをはじめ、人々の身近にいる妖精は、至高神に謀反を起こした精霊が地上に落とされ、 落ちた場所に住み着いたのだと考えられていました。 ドモヴォーイが落ちたところは人間の家だったので、次第に人間を気に入って、 家族を守ってくれるようになった、というわけです。 スラブ地方では、全ての家に、必ず一人ドモヴォーイが住んでいると考えられていました。 その家の最初の家長が死ぬと、ドモヴォーイになるという話もあるので、先祖崇拝にも近いですね。




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