デュラハン(Dullahan)という恐ろしい妖精がいます。 なんと、デュラハンには首がありません。 女性の場合もあるようですが、基本は鎧を身に着けた騎士の格好で、 首から上が、すっぽり無いのです! ときには自分の首を小脇に抱えています。 コシュタ・バワーと呼ばれる首のない馬や、黒い馬車に乗って、 夜の街を徘徊しているという伝説は ヨーロッパ北西部、特にアイルランドやスコットランドで信じられていました。

デュラハンは「死」の臭いを嗅ぎつけると、 馬車に乗って、魂を刈りにきます。 デュラハンの標的になった家の戸口には矢が突き刺さり、 馬車が止まった瞬間に戸口を開けてしまうと、 バケツいっぱいの血を顔に浴びせられてしまうと言います。 馬車が止まった家には、死人が出ることを予言しているのです。

さらに、デュラハンに標的にされた人は、 どこへ行こうが必ず見つかり、餌食になるとか・・・。 もうこれは、妖精というより死神ですね。



このデュラハンのような首なし騎士は、アーサー王伝説にも登場します。 円卓の騎士の一人で、アーサー王の甥でもあるガウェイン卿という人物の伝説に、 「ガウェイン卿と緑の騎士」という作者不詳の物語があります。 この物語に登場する「緑の騎士」は服はもちろん、髪も肌も緑色の不思議な人物で、 ガウェイン卿に「自分の首を一撃で斬ることができるか? 一撃を受けても私が無事だったら、 一年後にお前に同じ一撃をくれてやる。」という無茶な申し出をします。 ガウェイン卿はこれを受け、一撃で緑の騎士の首をはねますますが、 緑の騎士は自分の首を拾って、「一年後、緑の礼拝堂に来い」と言って去っていきます。 この緑の騎士は、実は魔法で姿を変えたある国の王で、 ガウェイン卿が緑の礼拝堂に向かって、自ら首を差し出すと、 首に傷を負わせただけで自分の正体を明かしました。

この他に、カラドクという円卓の騎士にも、 魔法使いの父親が扮した騎士の首をはね、 一年後に自ら首を差し出し、首を切られることなく、正体を告げられるという よく似た物語があります。


また、パリ、モンマルトルの丘で有名な、聖人の物語もあります。 聖ドニ(ディオニシウス)という聖人で、 現在ではフランスの守護聖人ともされていますが、 彼は3世紀後半、ローマ帝国によって、 パリ郊外にあるモンマルトルの丘で処刑されてしまいました。 首を斬られた聖ドニは起き上がって、自分の首を持ち、 なんと十数キロも歩いたとされているのです。 そして、ついに力尽きた場所に、サン・ドニ教会が建っているのだそうです。

ノートルダム寺院の正面に立って入口の上を見上げると、 たくさんの聖人の像が並んでいます。 その中の一つに、小脇に首を抱えた人物がいて、 この伝説を知らないで見つけると、正直ギョッとします・・・。


ジョニー・デップが主演したティム・バートンの映画、『スリーピー・ホロウ』には、 まさにデュラハンといった怪物が出てきます。 この映画は、開拓時代、アメリカに入植した残忍なドイツ人騎士が首を切られ、以来森の中を彷徨って 犠牲者を探しているという、ニューヨーク近郊で語り継がれていた伝説を元に作られたそうです。

西洋人の心理の奥深くには、首のない騎士への恐怖が残っているのかもしれませんね。





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