ゲリュオンの牛
10番目の難業にいたって、ヘラクレスの旅はこの世の果てまで達します。
そして、この旅の途中、ヘラクレスは目的外の仕事もすることになります。
3つの頭をもつ怪物とも、三人の男がお腹の部分で繋がっている三頭三体の怪物とも言われるゲリュオンは、
たくさんの怪物を産んだエキドナと兄弟にあたります。
ゲリュオンはスペインの西の沖合いにあると考えられた“太陽の沈む夕焼けの島”エリュテイア島で、
牛を放牧していました。
この赤い牛たちを生け捕りにして、アルゴスまで連れ帰るのが今回の仕事です。
ヘラクレスは西へ西へと進むうちに、太陽があまりにも近く暑いので、
何と、太陽神ヘリオスに向かって弓を向けました。
ヘリオスは怒るどころか、自分に弓を向けるとは良い度胸だとヘラクレスを気に入り、
太陽が沈んだ後に東へ帰るために使う黄金の大杯(船として使う)を貸してやろうと言うのです。
おかげで、ヘラクレスはエリュテイア島に到着できるのですが、
その途中、ジブラルタル海峡に「ヘラクレスの柱」と呼ばれる、
ヨーロッパとアフリカの山に向かい合って立つ二本の柱を建てたそうです。
この「ヘラクレスの柱」は、長く世界の果てと考えられていました。
柱には“Nec Plus Ultra ”=「この先には何もない」と書かれていたとも言われます。
Kachrylion作/紀元前500年代の壷絵
↑左:ヘラクレスと後ろにアテナ↑ 右:ゲリュオン(下にオルトロス)
エリュテイア島に着いたヘラクレスは、牛を守っている番犬オルトロス(エキドナの長男で、
のちに2番目の夫になる)と牛飼いのエウリュティオンを棍棒で打ち殺し、
牛たちを黄金の大杯に乗せて、海へ出ます。
騒ぎを見ていた別の家畜番がゲリュオンに知らせますが、ヘラクレスは
追ってきたゲリュオンを毒矢で射り、ゲリュオンも死んでしまいました。
いつもなら、ここですんなり帰れるのですが、
この時はあまりにも長い旅だったためか、まだまだ冒険が続きます。
まず、タルテッソスという地に着いたヘラクレスは、そこでヘリオス神に
黄金の大杯を返し、そこから歩いてスペインを通って、南フランスへ入りました。
そこで土民の大群に襲われますが、天から石の雨が降って、
大群をやっつけました。もちろんこれは、ゼウスの助けです。
ヘラクレスも石を投げ返して仕返しをし、現在でもその巨石がプロヴァンス地方に転がっているそうです。
ようやく黒海の北にある森の国にたどり着いたヘラクレスは、
今度はその国の女王で、ヘビの尻尾を持った不思議な女に出会います。
彼女はヘラクレスの馬を盗み、自分と子供を作らなければ、馬は返さないと言って、
ヘラクレスとの間に3人の子供をもうけました。
この不思議な女は、実はエキドナだったという説もあり、
ヘラクレスがたくさんのエキドナの子供(怪物)たちを退治していることを考えると、
何とも不思議な話です。
ようやくエキドナ(?)から開放されたヘラクレスは、イタリアを南下します。
が、途中でヘアンドロス王の牛を盗んだ怪物カクスを退治して喜ばれたり、
海岸線に長い道路を建設したり、逃げた一頭の牛を追ってシシリア島へ渡ったりと、なかなか旅は進みません。
ようやく牛を連れ帰れば、今度はヘラが虻を使って牛たちをバラバラに追い払い、
牛たちを集めるのにまた一苦労です。しかし、何とか牛たちを連れてくることに成功しました。
ミュケナイの王様は、ヘラクレスがあまりにも長い間帰ってこないので、
ヘラクレスはもう死んでいるのだろうと思っていたのですが、
牛たちを連れて戻ってきたヘラクレスを見て驚きました。
牛はその後ヘラに捧げられたそうです。
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