謎の牧師 ロバート・カーク
〜The Rev. Robert Kirk〜




「むかしむかしあるところに」で始まるのが、妖精の登場する物語にはつきものですが、今回ご紹介する物語は、いつどこで誰の身に起こった出来事なのか、はっきり分かっているという、ちょっと不思議なお話です。


17世紀後半、いえ、1685年頃から1692年、スコットランドにあるアバーフォイルという村に、ロバート・カークという牧師がおりました。この時代のスコットランドは、宗教上の大混乱の中にあり、海の向こうのヨーロッパから少し遅れてやってきた「魔女狩り」の狂乱のさなかにありました。人々の生活に密着し、気高く美しい存在だった妖精が、悪魔の一種に貶められ、妖精を見た!とでも言おうものなら、魔女裁判にかけられ兼ねないという時代でした。そんな時代に、父親も牧師であり、エジンバラ大学で文学修士を修め、セント・アンドリュース大学で神学博士号を取ったというインテリの牧師であれば、「妖精」なんて真っ向から否定しそうなものですが、ロバート・カーク牧師はちょっと変わっていました。ちょっとどころか、後世に名を残すほど変わっていました。

ロバート・カークの牧師としての有名な仕事は、聖書の「詩篇」をゲール語(ケルト語の一派)に訳したことですが、彼の名が後世に残っている原因は別にあります。“The Secret Commonwealth of Elves, Fauns and Fairies”〜「秘密の共和国」とか、「エルフ・フォーン・妖精の知られざる国」と訳される著書を残していることです。

ここでは「妖精の知られざる国」と呼ぶことにしましょう。この本は、カーク牧師が集めた妖精にまつわる研究資料、または論文と言ったほうが良いかもしれません。前述した時代状況に、牧師が妖精を研究していること自体が驚きなのですが、この論文には、非常に詳しい妖精の生態が語られています。例えば、妖精の身体がどのような物質でできているかとか、妖精が何を食べて生きているのかとか、社会構成や住みかについてなどが書かれているそうです。* この他にも、妖精を見る目、Second Sight「第二の視野」とか「千里眼」と呼ばれる目を持った人々に聞いて集めた話も書かれています。カーク牧師はたった一人で、聞いて集めた話から、現代にも通用するようなアプローチの「妖精の知られざる国」を書き上げたのでしょうか。


私には、カーク牧師自身が妖精を見ることのできるSecond Sightを持った人物だったのではないか、と思えて仕方ありません。



ロバート・カーク牧師には、そう思わせる伝説が残っているのです。



* すみません。私はまだ未読です。
  ちなみに日本語訳は彼の荒俣宏さんが『世界幻想文学大系35 英国ロマン派幻想集』(絶版)の中で、「秘密の共和国」という題名で一部を紹介されています。(これだけは読みました。)






 

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