前回までに、オリンポスの十二神の11人が揃いました。 次に登場するのは、ヘルメスという神様です。 ヘルメスは、ちょっと異色の神様で、簡単に言うと、「天才」です。 ゼウスが、プレイアデス七姉妹の長女マイアというニンフと浮気して生まれた神様で、 マイアは天空を担いでいるアトラスの娘です。
Jacomo Amigoni
Juno Receiving the Head of Argos(部分)(1732年)


ヘルメスの何がすごいかというと、まず生まれたその日に、 手近にあった亀の甲羅と羊の腸で、竪琴を発明したことです。 さらに生まれて半日ほどで、アポロンが飼っていた牛を盗んで、 たぶん一人で丸ごと一頭食べてしまったらしい、恐るべき赤ん坊です。

もちろんアポロンは怒って、ヘルメスを責めますが、 ヘルメスの口のうまさと、竪琴の見事な演奏に感心してしまい、 只者ではないと思ったアポロンは、思わずヘルメスをゼウスに引き合わせてしまったほどでした。

ゼウスも自分の息子ながら、生まれてすぐに発明したり、盗みをはたらいたりするヘルメスに感心し、 ヘルメスを旅人、商売、羊飼いの守護者とし、なんと泥棒の神様にも任命します。 とはいえ、主な仕事は、ゼウスの伝令役と、死者をハデスのもとへ連れて行く仕事です。

アポロンにも気に入られ、大親友(兄弟ですが)になり、アテネとも仲良しになります。 ゼウスからは、頭の回転も速く、口が堅いので信頼されました。 何と、あのヘラにも気に入られてしまいます。

さいころや、天文学、火を起こす方法まで発明したらしいヘルメスは、 文句なく十二神の仲間入りをしました。

さて、これで十二神が揃った!と思いきや、 ヘルメス以上の変わった神様が、もう一人必要です。


またまたゼウスの浮気から生まれた神様に、ディオニュソスという神様がいます。 今回の浮気相手は、人間の女性セメレです。 といっても、アレスとアフロディテの娘、ハルモニアを母に持つので、 ゼウスのひ孫なんじゃないのかしら?と思いつつ・・・。 セメレはプリュギアの王女で新月の巫女でした。 人間に化けて通ってくるゼウスとの間に子どもができましたが、 まだ子どもがお腹にいるうちに、ヘラが浮気に気づきました。

ヘラは、人間の女と浮気するなんて!と、さぞ怒ったことでしょう。 ヘラは老婆の姿でセメレの前に現れ、こう囁きます。 「あなたのところに通ってくる男は、本当は恐ろしい怪物かもしれないよ。 怪しいと思ったら、本当の姿を現すように言いなさい。」

セメレはその通り、ゼウスが化けている男に迫ります。 ゼウスは仕方なく、セメレの前に真の姿を現すのですが、 生身の人間が、神の真の姿を見たために、雷に焼かれて死んでしまったのでした。

ゼウスは、セメレのお腹から胎児を救い出し、自分の太ももに埋め込みました。 こうして生まれてきたのが、ディオニュソスです。
Michelangelo Merisi da Caravaggio
Bacchus(1594年)


ディオニュソスは、生まれてまもなくヘラから身を隠すために、世界中を旅することになります。 そこで出会ったのが、シレノスという森の神です。 ディオニュソスは、シレノスから葡萄の栽培と、その秘密・・・ワインの製造方法を教わります。

そして、ディオニュソスはワインを携えて世界中を旅し、熱狂的な信者を獲得していきました。 この、ディオニュソスの信者たちというのが、かなり怖いのです。 特に女性が多かったそうですが、泥酔し熱狂状態になった彼女たちは、踊り狂って森を抜け、 たまたま出会った動物(人間も)を八つ裂きにしてしまうんだそうです。 こういったディオニュソスの信者たちのイメージは、そのまま魔女のイメージにもつながり、 魔女の集会「サバト」は、ディオニュソスの信者とそっくりに描かれている部分があります。


ある時、酒と豊穣と酩酊の神として力をつけたディオニュソスは、 冥界に下りていき、ハデスと妻ペルセポネに面会します。 そしてペルセポネに、それはそれは美しい花束をプレゼントし、お願いを聞いてもらうことに成功しました。                                   それは、母セメレを地上へ返してもらうというもの。 かわいい奥さんに弱いハデスも、しぶしぶ納得し、セメレは地上へ帰ることができました。

ディオニュソスは、母セメレを伴ってオリンポスへ行き、ゼウスに面会します。 ゼウスは、神として立派に成長したディオニュソスを気に入り、 ぜひオリンポスの十二神に加えたいと考えました。

ですが、すでに十二の席は埋まっています。 考えあぐねたゼウスに、炉の女神ヘスティアが、「私の座を譲りましょう。」と申し出てくれたので、 ディオニュソスは、十二神の仲間入りを果たしたのでした。(ディオニュソスの十二神に含めない場合もあります。) ディオニュソスは、若く美しい神様として描かれたり、飲みすぎて太った禿頭のおじさんの姿で描かれたり。 その神様としての性質と同じように、良くも悪くも変わった神様です。

これで、ようやくオリンポスの十二神が揃いました。ギリシア神話の予備知識の完成です。




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